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個人的妄想倉庫×運命準備委員会
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 「それは」
2007年03月02日 (金) | 編集 |
***
 電話口のむこう、拗ねた声が答える。
 密月は、笑って答える。

 腕密月の部屋には、電話線が無い。学生寮の個室に、個々のプライベートな電話が設置してあるのは、かなり稀な例だろう。
 それは、学生寮の中でも少し外れた、人の出入りの少ないこの場所でも同じで。

 廊下の中ほど、壁に掛けられた内線電話は、学生の為に用意されたものだ。今それは、新潟まで――彼の故郷へと繋がっている。

「変わりない? ほんとに?」
「本当ですよ――ほんまほんま」

 妹の拗ねた声が懐かしい。
 彼女の一途な、時として頑固な一面を、密月は暖かく見守ることが出来た。それは、揺るがない何かを、確かめるときの手つきに似ている。そんな心で。

 それじゃあと、受話器が置かれる音を確かめて、回線を切る。

 ふと、窓の外が目に入った。

 赤々と燃える太陽は、焦れるように地平線を舐め、向こう側へと沈んでいく。じき、夜が来る。雨は、降りそうに無い。

 それで、いい。

 雨の夜には、思い出してしまうことが、ひとつあった。
 受話器の向こう、自分の心を暖めてくれる、あの子とは――縁のない世界でのこと。
 きゅっと、胸に去来する思いを、辛うじて閉じ込める。
 閉じ込めた蓋を、自分は。

 いとも簡単に、開けてしまうに違いないのだ。

 それは、――愚かな惰性?
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