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 あまねとチサト君(1)
2007年03月03日 (土) | 編集 |
第3回プライベートリアクション
No.P×OXX19 担当:Sie
「歯車のように」
(このプライベートリアクションは、以下の行動選択肢を選ばれた方の一部、宵闇ブログをご覧の方だけに送られています)

■プラリアを読む

――――――――
 君はそうやって走るといい
 ぼくは、ここから見ている

 夏が終わり秋がきても、彼の日課は続いた。
 夏がくる前、春が顔を覗かせる前も、彼はそうしていた。
 ただ、朝日の上る時間が季節ごとに違うので、彼を取り囲む空気も、その季節によって違う、それだけの話だ。
 だからその日、彼を――黒柳チサト(くろやなぎ・―)を取り囲む空気が秋のそれで、指先がピンと、気温の変化を捉えたことだって、彼にとっては酷くあたりまえのことだった。夏の初め、空気が温くなってきたのと同じ現象。
 同じ。
 だからこそ、チサトは思う。これがいつまで続くのだろう、と。
 月曜の早朝。新聞の束を脇に、チサトは家々の郵便受けを、点を線で繋ぐようにして走っていた。新聞配達のアルバイトは、『走ること』が何よりも好きな彼の、何よりも適任と言うべきアルバイトだった。学生が就けるアルバイトの中でも、古典的で普遍的なそれ。
 チサトは、走ることが得意だ。
 ただそれを、競技の枠にはめることが出来ない。
 それは、彼の一番得意なことを、彼を生かすためには……少なくとも、陸上の奨学生であるとか、競技の勝利者であるとか、そういう枠に当てはめることが出来ない、と言うことを示していた。
 街の中。
 走れば変わる風景。
 家々の明かり、または暗さ。
 眠りの闇、目覚めの光り、さざめきと沈黙。
 チサトの足は、その中をかける。街は確かに、静かに、時に賑やかに、彼に命を伝える。平坦な競技場に閉じ込められることよりも、そんな風景の中を走りつづけることを、チサトは好んだ。
 冷え始めた空気も、走ることで熱を帯びた体には心地よい。
 心地よければ心地いいほど――
 ここに、『走ること』に、いつまでもとどまっては居られないのではないか、という不安が、彼の胸に灯る。それは、夕方、それこそ町じゅうに電灯が灯るかのように。しかしそれは、闇が訪れると言う不安しか伴わない。冷たいひかり。
 ――繰り返し考えたところで。
「答えなんか出ねぇじゃんよチクショウ!」
 裏路地に入ったことを幸いに、チサトは耐えられず口に出す。
 立ち止まり、悪い考えを消し去るように、ぶんぶんと頭を振って――物陰に、人の気配を感じ、チサトは立ち止まる。ぶつかると言う間抜けはしなかった。それは幸いだったと、チサトは思う。
 朝。
 早朝出会う人はたいてい決まっている。
 出社前、公園をランニングする会社員。定年退職したらしい、ウォーキングの老人。犬を散歩させる飼い主。朝早くに目を覚まし、活動する人たちの、どんなタイプにも――人影は、当てはまらなかった。離れた立ち位置からも分かる長身。
 白いタートルネック。黒い、スラックスだろうか。男は、煙草の煙や酒の匂い――直接嗅いだわけではない。そんな匂いがしたわけではない。だが、彼に付随する空気は、間違っても、さわやかな朝のしずくでは、決して。決してなかった。
 連想したのは、彼の『前世』にも連続する言葉。
(……闇……?)
 色で言うならば、黒。
 チサトが立ち止まったのには、もう一つの理由がある。
 彼が、こちらを、見ていた、のだ。
「……やあ」
 そんなチサトを見て、男が笑う。眼鏡に縁取られた瞳は、切れ上がって黒い。
「ど、どうも」
 いつもなら、オハヨウゴザイマスと切り替えして、走り去れる距離。男はこちらに向かってきている。危険は無い。彼の右手は大きな皮かばんの肩紐に、左手は――白い包帯に縁取られているそれは、空手だ。何も無い。
 なのに何故。
 何かを狙うような気配を、この男に感じるのか。理由の無いピリとした空気に、チサトは眉を寄せる。
「……の?」
 ふと、声がかけられた。
「え」
 見上げると、男が直ぐ近くに立っていた。
「走んないの?」
 言葉を捕らえ損ねて、チサトは面食らう。
「……え?」
 間。
 自分の問いは酷く間が抜けていただろうと、チサトが認識するまでの、間。
 男は破顔した。
「君が走ってるとこを見てた。綺麗だったから」

「…………え?!」

 男はもう一度笑う。
「面白い顔して驚くね、君」
 言う男は、酒臭くも煙草臭くも無かった。ほんのりと、何かの『良い薫り』がする。チサトの、知らない薫り。香りはチサトをほんの僅か通り過ぎて、そうして振り返った。
「ぼくは」
 チサトも、声の方を、ほんの僅か振り返る。
「飛んだり跳ねたりはからっきしなんでね、フォームがどうのって話は分からないけど、君の走るとこは、綺麗だ」
 男の声は、酷くまじめだった。まじめだったからこそ、からかわれたような気持ちが、チサトの胸に湧き上がる。湧き上がって――彼の目が、言葉と同じように、酷く静かであることに気づく。
 左の目の下に、二つの黒子。双子星のようだ。

「――あんた」

「じゃ。気をつけて」

 男は、今度こそ背を向けて、包帯の巻かれた左手を振る。白い包帯の隙間から、僅かに、皮膚が引き攣れたような跡が覗く。
 言葉の、傷の、男の意味を問う謎かけがチサトの脳裏を走って――声をかけそびれたまま立ち尽くした自分に気づく。
「っ、やべ」
 ひとまず、手元に残った朝刊を配り終えてしまわねば。

 ――綺麗。

「……ンだったんだ、今の」
 くっと、体に力を込めて。
 スタートの羽根を、その力を生み出して、チサトは駆け出す。脳裏を駆け巡る様々なことを――彼の体は、駆け出すことで、その中身をからっぽにしていく。指先から触れる空気、脳裏に残る苦悩、先ほど出会った男のことも、頭のてっぺんからつま先に向かって、水が何かを押し流すように、自然に流していく。
 走ること。
 しなやかに、のびやかに、一匹の動物のように駆け出すチサトを、あっという間に遠ざかるそれを、もう一度振り返った男の、静かな瞳だけが、その視界のはじっこに捉えている。

 朝日は昇り始めた。
 歯車が軋むように。
――――――――

□PLより:
 チサトくんとはOZ学園での先輩後輩に当たるんですが、「学校で出会う前に、こんなところでバッタリ」という話。
 チサトくんは、走ることが好きというポジティブな部分が、ネガティブな部分にも繋がっていて、その葛藤が大好きです。そんな君が好き……! みたいな(え)。

 って、突如人様のPCへの愛を語るな私。ゲフン。
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