個人的妄想倉庫×運命準備委員会
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 きょうだいげんか
2007年03月03日 (土) | 編集 |
***
「……やあ」
 目を逸らしたい。
 けれど逸らせない。
 許せない。
 けれど赦している。
 目の前に現れた黒い――その日は珍しく、襟の高い白のシャツと、黒いジャケットを着た、馴染みのある男を、腕密月(かいな・みつづき)は、眩しいものを直視したときの、あの眩暈を連れて見つめていた。
「逃げないで、くれると嬉しい」
 声は。
 久しぶりに聞く。しかし、想い出の中そのままの、優しいものだった。

***
 場所は、密月の部屋を選んだ。
 必要なものが規則正しく並んだ、殺風景な部屋。卓上にはガラスのコップが、黄色い水仙を抱えて佇んでいる。
「……どない、しはったん……?」
 長い長い沈黙の後、密月が折れる。
 部屋に入れ、ベッドに腰をかけ、密月がお茶を淹れるまでの仕草を見守りながら、じっとしている。半分以上が牛乳で出来たミルクティーを受け取り、穂積あまね(ほづみ・―)は笑った。
「声、久しぶりに聞いた」
「……」
 密月は拗ねている。
 納得行かない、と、全身で訴えている。訴えながら、しかし。同じくらい真摯に――目の前の男を案じていた。密月にとって、彼は。たった一人の兄なのだ。

「密に、聞きたいことがある」

 声は静かだった。それだけに、ぴんと張り詰めた何かを、感じさせずには入られない声。

「親父のこと、覚えているだろう」
「……」
「ぼくが酷く殴られて」
「っ」
「密が大人たちに報せに行った」
「……」
「ぼくらが八十神に来るきっかけになった、あの日のことだ。あの日、ぼくは、何て言って罵られた?」
「……っ」
 じっと、あまねの声に耳を傾けていた密月が、不意に目を逸らす。唇を噛み締めて――それでも、あまねの方を見ようとして、何度も躊躇い、やがて俯いてしまう。
「密」
「……言えへん」
「密」
「言えへん」
「知って、るんだね」
 同じ言葉を繰り返していた密月は、あまねの言葉に、はっと顔を上げる。
 寂しそうな、しかし静かな瞳は、じっと密月を見ていた。手に持ったマグカップから、やわらかな湯気が立ち上る。
 こくん、と、密月の喉が上下した。緊張に。
「うち、言えへん。……あんな、酷い」
 逸らした視線が揺れている。恐怖に。
「密」
「酷い、無茶苦茶な殴り方して、」
「密」
 あまねの手が、密月のそれを握る。
「殴られたのはお前じゃない」
「あーちゃん」
 泣きそうな声。泣きそうな顔。その上の頭を、あまねの手がくしゃっと撫でた。
「……思い出したんだ」
「っ……」
「何が切っ掛けだったんだろうな。――いや、判ってる。人と接した。誰かのことを……人の気持ちを本気で考えた。考えるうちに、色々なことを思い出した。誰かを……お前を傷つけたことも、……ぼくが、何をされたのかも……これは、ぼくの記憶違いじゃないだろう?」
「あ、ちゃん」
「“化け物”」
 びくりと、密月の体が跳ねた。震えたと言っても良い。
「“なんでお前が生きてる”」
「あ」
 恐怖に――密月の顔が歪む。
「あま、……、っ、……ごめんなさい……!」
 弾けたように、密月が叫んだ。
「ごめんなさい、うちが、うちが、うちが……助けられへんかった……うちが、うちがあーちゃんに、羨ましいなんて言うたから、“お父はんと暮らせて羨ましい”なんて言うたから、あーちゃん、あんなになるまで逃げへんかったんやろう……?! うちが……っ」
 あまねは、黙って密月を抱き寄せた。
「ごめんなさい……」
 泣いているのは、声でわかった。
「……ミツ。お前、ずっと抱えてたのか? ぼくがお前の側に居たときも」
「う」
「ぼくがお前を突き放したときも。ぼくの傷を」
「っ……」
「お前が、独りで」
「あーちゃんが……っ、だって、あーちゃんがっ……ぶつから……っ……」
「……ぼくが、君を?」
 密月の首が、横に振られる。
「ちがう。うちはうちがぶたれることで傷ついたりせえへんもん。うちは、うちを責める事で……あーちゃんが」
「……ぼくが?」
「あーちゃん、自分のこと殴ってたやろ。うち、それが許せへんかってん。それが、それだけが辛かってん」
「……」
「うちにどうこう言うのも……お母はんやうちのことなんか言うのも、だって、兄弟やのに――母子なのに」
「……そのことで、ぼくが、傷ついてると……思ってたの?」
 密月は頷く。
 あまねの熱が、彼の肩から、密月の顎へ、頬へ、伝わっていく。その逆に、密月の頬から流れ落ちた涙が、あまねの肩を濡らしていた。
「……馬鹿な子だね」
 その頭を、あまねは優しく撫でた。
「ぼくなんか見捨てれば良かったのに」
 その声は。密月を撫でる手と同じく、決して無感情ではなかった。
 その声に。密月が異議を唱える。硬く握り締めた拳は、だん、と、あまねの胸を打った。
「何言うてるのん!」
 振り上げられたこぶしは、立て続けにあまねを打つ。
「きょうだいやんか……! 水臭いこと言わんとって! あほ!」
「いて」
「にーちゃんのあほう!」
「痛い、引っ張るなミツ」
「これくらい我慢しぃや、うちかて痛かってんで?!」
「……ごめん」
「あほ」
 泣きじゃくりながら、ばしばしと降る拳を。手のひらを。あまねは全部受け止めた。
「うー」
「……ごめん……」
 謝罪の言葉を口にしながら、あまねは、自分が何を謝っているのだろう、と考える。
 密月をなじったことか。彼に罪悪感を抱かせたことか。自分の判断だけで、彼を自分から引き離して――けれど結局、手放せなかったこと、か。

 おとうと。

 腕の中に暖かい生き物がいる。

(……ぼくの)
 ぬくもりはあまねに、失った命を思い出させた。かつて、違う名で、違う時代を生きていた頃に。得たくて、得られなくて、求めて失って、――でも欲しかったもの。
(……家族)

 その髪を。
 あまねとは違う、柔らかな金の髪を、何度も撫でる。密月が、あまねの撫でる手を、そのまま受け入れていることに、あまねは安堵した。
 ――なんて馬鹿だ、
 と、あまねは思う。自らを。
 だだをこねて傷つけて、結局抱き寄せて泣かせて。

「ごめん……」

 目を逸らしたい。
 けれど逸らせない。
 愛せない。
 けれど愛している。

 ふたりはそのまま、側に居た。眠りに就くまで。

***

□PLより:
 小話に分類しましたが、コレ結構でっかい部位です。
 あまねと密月に関しては、激しく自己満足が閉める――まあ、プライベートな話が多い……ので、なるべく、自分のことは自分のプラリアで、って思ってるんですけども。ももも。

 蛇足ですが、「あまねが覚えている前世を密月が覚えていない」という前提があります。
 これもかっ飛ばすと色々わかんない部分ではあるんですが、まあ、追々。必要がありそうならゲーム中に。なさそうなら終了後に。と、思っています。
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コメント
この記事へのコメント
Re: きょうだいげんか
 チサトくんとの話
http://yoiyamikan.blog83.fc2.com/blog-entry-31.html
 から、地味に続いています。
2007/03/12(月) 11:43:45 | URL | Sie@管理人 #mQop/nM.[ 編集]
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