個人的妄想倉庫×運命準備委員会
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 爪の跡
2007年03月31日 (土) | 編集 |
No.P×OXX41 担当:Sie
「雛鳥のように」
(このプライベートリアクションは、以下の行動選択肢を選ばれた方の全てに送られています)
■プラリアを読む

――――――――
もし私が一つの生命の悩みを慰めることができれば、
あるいは一つの苦痛をさますことができれば。

***
 腕密月(かいな・みつづき)は、自分の指先をじっと見つめていた。
 爪がもげてる。8本。
 扉をこじ開けようと、無理な力を入れた為だ。
 薄い紙で切った時ですら、指先はひりりと痛むのに、これほどの怪我を負って、何故自分は痛みを感じなかったのだろう、と、密月は思う。
 誰かが側に居る。
 2、3の会話を交わしたような気がしたのだが、言葉が胸に届かない。
 会話の内容も思い出せなかった。
 だから、左手に優しく添えられた――正しくは左手を取ったのが保馬想一朗(ほば・そういちろう)で、右手にあるのが細い注射器だと――気づいたのは、ちくりと痛みが走った後だった。
「あ」
 痛みは殆ど無い。想一朗の腕が良いのだろう。
「鎮静剤だ」
 落ち着いた――大人の声。そういえば、先ほどそんな会話を交わした気もするのだが、ぼんやりと霞がかった思考は、爪の先ほども当てにならなかった。
 こくん、と、小さく頷いて、視線だけで感謝の意を表す。言葉は出てこなかった。ただ、凪のように穏やかに――腕密月は途方に暮れていた。
「使うといい」
 はい、と、差し出されたのは品の良いハンカチで、そこで密月は、初めて自分が泣いていることに気づく。だらしのない涙腺を恥ながら、「おおきに」と、小声で答えた。
 会話が途切れる。
 徐々に、鼓動が落ち着いていく。落ち着いて初めて、自分の胸が早鐘を打っていたことに気づくのだ。何もかも、ひとつずれている。
 大切なパーツが、胸から零れ落ちてしまったかのような喪失感。

「そっちは――、腕は……大丈夫、か?」
 声をかけたのは桐原灰人だ。
 けが人の手当てに回っていた十河迅(そごう・じん)も、そちらが落ち着いたのか、視線で様子を問う。密月はゆるく笑い、想一朗は、出来れば処置した方が良いだろうと答えた。爪は治りの遅い部位だ。
「軽い怪我くらいなら直ぐ治せるぜ。見せてみろ」
「あ――治療は」
 迅に手をとられ、密月が小さく声を上げる。
 どうしたのかと視線で問われ、密月は真っ直ぐに迅を見た。
「全部は治してしまわんとって下さい。痛みがあるほうが、正気で居られる」
 申し訳無さそうに。
 けれどはっきりと、密月は告げた。
「……腕」
 灰人が苦虫を噛み潰したような顔で呟き、迅はしれっとして、「いいぜ」とだけ告げた。
「曲がってる。途中で折れてるのは不味いだろ。食い込むと膿む。血止めと――まあいいや、運命使ってみて、適当なとこで止める。それでいいか?」
「へえ。すんまへん――わがまま言うて」
 小さくなりながら、密月は両の手を差し出した。

***
「――密月、くん?」
「はい」
 想一朗の声は、優しい感触で耳に届くと、密月は思う。それはこの人が、優しいからかも知れない、とも。
「雨宮くんは、君にとってどんな人だったんだい?」
 密月の鼻先に、消毒液の香りが届く。
 ピンセットに摘まれた脱脂綿が、想一朗の指先を借りて、密月の爪(正しくは爪のあった部位)から、血のあとを拭っていった。迅の手当てのおかげで、見ているだけで痛みが走りそうだった傷跡は、随分とましな状況になっていた。
 薄い皮膚に覆われた柔らかな傷跡は、触れられると少し痛む。
「……っ」
 傷よりも、もっと痛む部位があると、密月は知る。痛覚と、感情の起伏が、まだある。
「……雨宮、センセイは」
 ぽそぽそっとこぼして、密月は俯く。
 頬が僅かに赤い。それを申し訳無さそうに、俯くことで隠す。隠した後に、恐る恐る――その間、焦れもせず、じっと待っていた想一朗を見上げ、そちらを真っ直ぐに見て、密月は言う。
「優しゅうおす」
 一通りの消毒を終え、傷を傷めぬよう手当てを続けたあと、想一朗は、「そう」と、笑った。
 優しかった、と、言わなかったその理由を。
 お互いに胸に含めて口には出さない。
 視線を彷徨わせた後、密月はぽつぽつと言葉を紡いだ。譲との逢瀬は、表立って口に出せるようなものではなかったから。ずっと、胸に秘めていたことだったから。
 密月から語られる雨宮譲は、どれひとつとっても、少年の目線を――彼がどれほどにあの教師を好いていたのか、よく分かる内容だった。
 想一朗は、ひとつひとつに、丁寧に頷く。
 同意しているのではなくとも、決して、密月の言葉をないがしろに扱いはしない。

 いくつかの言葉のあと、指先が白い包帯に覆われると、「大事にしなさい」と、想一朗は言った。

***
もし私が一人の心を傷心から救ってやることができれば、
私の生きることは無駄ではないだろう。
もし私が一つの生命の悩みを慰めることができれば、
あるいは一つの苦痛をさますことができれば。

あるいは一羽の弱っている駒鳥を助けて
その巣の中に再び戻してやることができるのなら、
私は無駄に生きてはいないのであろう。
――ディッキンスン

***



――――――――
■PLより
 アクションに間に合わせたくて大急ぎで書いたので、なんというか大慌てな一本。
 指の怪我は、PLのがびっくりしました。
 爪って、ちょっと剥がしただけでも痛いのに……(わわわ)。
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