個人的妄想倉庫×運命準備委員会
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 ダーク10title:免罪符
2007年05月18日 (金) | 編集 |
※前世ネタ、少々妖しい空気、です。
 ロンドンシリーズ(?)、青年(=あまね前世)視点。
 
 
 
No.P×OXX57 担当:Sie
「免罪符」
(このプライベートリアクションは、以下の行動選択肢を選ばれた方の全てに送られています)
■プラリアを読む

――――――――
 人が死のうと生きようと、世界は大きく変わらない。

 鉛色の空を見上げる。
 今、自分は何処にいて、何と呼ばれていただろう。
 がらがらと響く音は石畳の悲鳴。町並みを見て思う――そうだ。ここはロンドンだ。流れる車窓、馬の体臭。それ以外の匂い。臭い、におい。
 この揺れの中で良く眠れたものだ。
 背筋を伸ばすと、少し伸びた黒髪が視界を遮った。

 ――19世紀――

 ひとつまえの、ふたつまえの前世を、青年は思い返す。向けられた奇異の瞳。蔑みの声。罵声と暴力。『何や嫌なもの』を、思い出したことは解った。が、何を思い出したのか『思い出せない』。
(……また、か)
 知らぬはずの前世と連動して思い出す、苦い何か。
 耳元で囁かれる悪夢のようなそれ。

 人が死のうが生きようが、この街は変わらない。
 最愛の人を亡くした後も、こうして自分が生きているように。
(……)
 葬儀の帰り。
 参列者の片隅で、様々なものを見渡して。
 青年は、ただひとつのことを考えていた。
(……滑稽だ)
 腕を組み、沈黙を落として。ただひとつのことを。

 死んだのは、ひとりの夫人。棺にすがるようにして泣き叫ぶ小間使いも。汚いものを見るようにして、しかし時折、隠し切れぬ微笑を浮かべる姑も。
 涙を浮かべることもせず、ただ、苦虫を噛み潰したような顔をしていた夫も。――葬儀に参列した、ありとあらゆる人物を、青年は観察していた。
 葬儀? 死を悼む?

(彼女を……殺しておいて……?)

 青年の手元には、一通の手紙が遺されている。
 夫人との間に交わされた幾つもの文の、最後の一通。そこには。
 彼女を死に至らしめた毒と、それを盛った人物のことが書き記されていた。
 前世を。
 転生を繰り返す苦しみを、夫人と青年は分かち合っていた。
 だから、夫人には、自分がどんな囁きで苦しんでいるのか、どんな「運命」を持っているのか……誰にも打ち明けたことの無い秘密と苦しみを、彼女にだけは伝え居ていた。
 同時に、夫人がどんな運命を繰り返して死んだのか、その秘密も聞いていた。――彼女は――いつか、毒を飲んで死ぬ、「同じ終わり方」をしてきたと、何時だか告白してくれた。

 諦め。
 抵抗。
 そして、希望と絶望。

 運命から救い出せないまま、彼女を独り死なせてしまった。

 あの愚図な夫も、調薬した医師も、裏で糸を引いたであろう姑も。手を下した小間使いも。
 全て目に焼き付けた。許さない。ひとりのこらず。

「……大丈夫、かい」

 ふと、隣で沈黙を守り続けていた男――真新しいヤードの制服を身にまとった男が、遠慮がちに声をかけた。制服の仕立てのよさは、男の育ち――すなわち家柄のよさを匂わせている。
 青年は視線だけを送り、否定も肯定もせず、ただ僅かに頷いて見せた。

「……前に君に話した例の件、恐らく立証できると思うよ。ちょっと締め上げれば医師も吐くだろう」
 夫人殺しをね。
 若いヤードは青年にだけ届くように、しかし必要以上に顔を近づけて囁く。耳元に届いた声に、青年は力なく――形だけで微笑んで見せた。
 それだけでもヤードは、舞い上がりかねない喜びを見せる。
「俺は」
 青年は、馬車の硬い椅子とは違う温度を手に感じた。
 男の手のひらがそこに添えられている。汗ばんだ体温。ああ、こいつもか。――そう、口には出さずに思う。いつもは振り払ってきたそれを、拒まずにさせるがままに放置すると、手に力が込められた。ぐっと。
「君の力になれる」

 ――ぼくも。
 こんな風に見えていたのだろうか。僅かな、しかし拭いようのない無力感が青年を襲う。
 こんな風に一途に。
 彼女を守れるつもりで。守るつもりで。

 つい、と、手を滑らせて体温から逃げる。
 男は待てを命じられた犬のように、しょんぼりとうなだれた。青年の心は微塵も動かされない。だからこそ――凪のような心で、青年は微笑んで見せた。

「……君だけが頼りなんだ」
 薄く。寂しげに。
「力を貸してくれるかい。ぼくは……犯人を突き止めたい」

 葬儀から、ずっと考えていたひとつのこと。
 復讐。
 報復。
 何と呼んでも良い。自分から愛する人を奪った存在から、その全てを奪う。命でも地位でも金でも名誉でもいい。奪えるものは全て引き剥がして叩き付ける。沼地に。
 青年は目を閉じた。長い睫が震える。

「正義の為に」

 唇はごく軽く、安っぽい嘘を吐く。
 だが、それはある意味で青年の真実だった。

 あのひとを好きだった。愛していた。彼女の為になら、なんだって出来ると思っていたのに、彼女は望まなかった。何一つ。
 ただ、ひたすらに――青年を愛し続けただけだ。
 暴力的なまでに、盲目の愛。
 始めて自分を受け入れてくれた人。
 自分は、彼女の為に『何か』しなくてはならない。彼女の手紙は、小間使いの行く末を案じていた。彼女が道端で拾った、仔犬の様な存在。
 踏みつけられて死んでいくだけのそれに、彼女は惜しみない愛を注いだ。自分にしたように。それを裏切ったのだ。許されない。
 そう思うことは、彼女への愛を裏付ける誓いのようにも、憎しみを正当化する免罪符のようにも思われた。
 ――例え報復が、彼女の望みでなくても。

「勿論だよ……!」

 ヤードの声は少し大きすぎた。
 馬鹿な男だ、と、青年は思う。だから優しく微笑むことが出来た。そっと、背もたれにそうするように、男の肩に身を寄せてやる。

「着くまで、肩を借りて良いかな。少し、疲れた」

 構わない、と答える男の声は少し上ずっている。体温のお陰で、冷えずに済みそうだ、くらいのことを考えて、青年は自嘲する。
 あの葬儀。
 参列者の多くは、自分と夫人の不義を疑っただろう。
 手を。
 そっと重ねるのが精一杯だったのに。
 エメラルド・グリーンのあの瞳を、淡い睫が縁取るのを、何度唇でなぞりたいと思ったか知れない。
 それでも汚せなかった。
 触れられなかった。
 ただの一度も。
 唇に。肌に。胸に……

 僅かに頭をずらして男を見上げる。
 男の心に興味は無かったが、これが利用できる、という頭だけは働いた。そう。ただのひとりも許さない。ただのひとりも。そのためならば。

「……大丈夫、かい」

 男がもう一度訊いた。

「平気」
 大丈夫でないのは君の方だろう。そう、胸の奥で思う。不憫な男。御者から見えぬ位置で、青年は男を撫でてやった。
「けど」
 低く言う。男の喉が上下するのが見えた。
 目を伏せて、囁く――いや、誘う。
「部屋まで……送ってくれるかい……?」
 無言のまま頷く忠実な男を。まるで犬のようだ、と、思いながら。青年は――寂しく笑った。

 人が死のうと生きようと、世界は大きく変わらない。
 なら。

(ぼくが殺しても変わらないはずだ)

 地獄の底へ。
 叩き落す一つ目の供物に、青年は自分の身体を選んだ。
――――――――

■ダーク10title(下記サイトから借用)
 site name :: リライト
 master :: 甘利はるき様
 url :: http://lonelylion.nobody.jp/

□前世モノです。
 シリーズの番外編みたいな感じの位置づけ。
 青年=あまね、夫人=密月です。ヤードは、どうしましょうね。特に誰とも設定してません。なんかかわいそうな人。

 改めて考えると色々恥ずかしい(笑)。
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